楽茶碗 『窯は水分が苦手!でも!』
やきものを焼く窯。いろんな窯がありますね!私が専門の楽窯だけでは無く、もっと大型な穴窯、登り窯など形も大きさも多種多様です。
しかし、多種多様な窯はあれど、火を扱う道具ですから、どの窯も当然水分は嫌います。
何故水分を嫌うかと言えば、窯が湿っている時は、作品の上がりも悪いので窯はなるべく乾燥していることが大事なんです。
窯が乾燥していても、焼く前の作品に水分が含まれているのも良くありません。作品の発色が悪くなったり、割れたり、またボツと言って焼き上がりの作品の表面に小さな穴が沢山出来てしまいます。
ボツの原因は釉がけ後の作品が十分乾燥していない状態で焼成し、器体内の水分が蒸発した痕です。
このように水分はやきものにとっては悪いことだらけなんです。
しかし、昔には水分を利用した窯が存在していたんですよ!その窯の名は『饅頭窯』だったと記憶しています。
時代は中国の宋の時代です。日本では鎌倉時代かな。高さは7〜10メートル位ある饅頭のような窯です。
この窯の特徴は窯の上がカッパの皿みたいな円形の凹みがあり、地面からその凹みまで階段があるヘンテコな窯です。
この窯で何を焼いたと思います?青磁です!あの砧青磁(きぬたせいじ)を焼いた窯なんです。
青磁は還元でないと綺麗な青緑色は出ません。還元状態で焼成が完了し、空気が窯に入らないようにするために焚き口をまず閉じます。
外気(空気)が窯に入らないようにするためです。しかし、窯自体が熱膨張して窯自体が大きくなり、窯全体にヒビが入り、そこから空気を窯が吸ってしまいます。
なぜ、空気を窯が吸うか?それはですね!まだ窯の中では燃料である木材がまだ燃えていますよね!
窯の焚き口は閉められていますから、窯内部は酸欠状態なので、木材は燃焼したいけどアップアップ状態。
そこにラッキーに窯のあちこちにヒビが沢山出来たので、外気をヒビから吸い込むんです。
外気が窯内に入ると、せっかく還元状態で焼き上げた作品は、酸化してしまい綺麗な青緑から茶色がかった青磁に変色してしまいます。
そこで酸化を防ぐために、宋の時代の人々は焼成が完了する頃になると、階段をバケツリレーのように水を運び上げて、窯の上にある凹みに水を満たして行きます。
するとその凹みに注がれた水(池)は窯に浸透し、窯内に滴り、高温により一瞬で蒸発して水蒸気に満たされます。
すると、窯も冷やされ、熱膨張していた窯も収縮し、ヒビもしっかり閉じてしまいます。
これで窯内は還元状態が維持され、綺麗な青緑色の青磁が出きる訳です。
凄い知恵ですよね!窯は水分を嫌うのが当たり前の考えですが、当時の中国では、逆に水を利用してしまうのですから!
黒楽茶碗も焼成が完了すると、火鋏で茶碗を窯から引き出して、一気に水に浸けて急冷します。この理屈も同様に真黒色を出すために、一気に茶碗を冷やして酸化を防いでいる作業なんですよ!