やきものに常識はない
昔のむかし、ある時黒楽茶碗の焼成を終えて窯の中を見ました。
黒楽茶碗が窯のセンベイ(棚板と同意)と引っ付かないようにするためと、また茶碗の高台の景色となるために置くトチを見たときに、不思議な発見がありました。
トチは破損しない限り何回か使用しますが、どうしても茶碗からの釉薬が垂れてきてトチに付着します。
そのトチも例に漏れず、前回に焼いた加茂川石釉が付いていましたが、まだ使えるので使った訳です。
要は2回の焼きをしたトチとなりました。
そのトチに付いた加茂川石釉は艶を無くしていたんです。
この発見は、黒楽茶碗の焼きに大きな変化をもたらせました。
その後、あえて黒楽茶碗の二度焼きをして結果を検証しましたが、長次郎作品には確かに二度焼き作品がある可能性があります。
問題となるのは一回目の焼きに於ては、焼き上がりとなってから、少し窯の中で温度を下げてから、加茂川石釉が火鋏でつかんでも鋏痕が付かない固さになってから引き出ししなければなりません。
まだ、釉薬が柔らかい時に引き出ししてしまうと、二個の鋏痕が付いてしまうので注意が必要です。
後にその焼いた黒楽茶碗を再度焼いて、通常に焼けば出来上がりです。
よく茶道具商や美術商で艶のない黒楽茶碗を見かけます。
でも、それらは釉薬が半融け作品やら、ベンガラ等の鉄分が遊離して釉薬の表面を覆ったに過ぎない茶碗であり、長次郎の焼きの技法とは全く違います。
黒楽茶碗の釉薬は半生は良いのですが、半融けはただの生焼けなんです。
さて、話の場面は一気に変わりますが、やきものの「二度焼き」は是か否か?
皆さんはどう思いますか?
やきものは炎との戦いだ!二度焼きなんか男じゃない!なんて言う方はいらっしゃいますか?
私は思います。やきものは1回で焼くとは誰も決めていないということです!
穴窯や大窯です。皆さんが知っている有名な登窯の前の時代の窯です。
これらの窯は窯の部屋が1つしかないために、炎は一方通行なんです。
だから後ろの作品は生焼けの作品が出ることもあります。
それらの生焼け作品は割れてはいませんから、次回の焼きで再度焼くんです。
物原と言って、焼き損じた作品や割れたサヤを捨てる場所が必ず窯跡にはありますが、そこには二度焼きした痕跡のある破片がたくさんあるんです。
長くなりましたが、私の言いたいことは、「やきものは1回焼きで決めろとは誰もいっていないし、規則もない」ということです。
ただ、赤楽に於ては二度焼きはすすめません。何故なら一回目のほうが断然色合いが良いからです。
長次郎作品をよく観察すると、しっかり釉薬が融けていて艶がない作品があります。
そんな作品を焼けるように頑張ってください!