黒楽茶碗の釉薬の厚みと調合
黒楽茶碗の釉薬の厚さはどのくらいだと思いますか ?
「茶碗により違うんじゃないかな !」
確かに仰る通りです。
現代の黒楽茶碗は総じて、昔の長次郎作品の黒楽茶碗と比較すると、釉薬が薄く密度も違います。
結論から言えば、長次郎作品の楽茶碗の見込みの釉薬の厚さは葉書一枚位の厚さです。
茶碗の腰から高台にかけても、その位の厚さです。
ただ、茶碗の外側の側面は違います。釉薬の厚さは、葉書1.5~2枚位の厚さとなります。
この位釉薬の厚さがないと、色の奥深さが出ません。
また、挟み痕もシッカリ付きません。
軽い挟み痕ではなくて、飴を挟んだような痕みたいな、あの力強さは釉薬の厚さがないと出ないのです。
現代の黒楽の釉薬配合は本加茂川石を使っていることは殆どなく、新加茂川石や弁がらなどで黒楽を作っているみたいですが、配合割合において昔より白玉の配合割合が多く、釉薬に簡単に厚みを出せます。
なので挟ん痕も付けやすいですが、本加茂川石を使った釉薬での挟み痕とは見た感じが異なります。加茂川石の挟み痕は、凄みがあるんですよ。
話は少しずれますが、加茂川石だけを釉薬にして昔焼いたことがあります。
結果は、兎に角溶けにくいです。1300℃位温度をあげて何とか熔けましたが、茶碗に石が熔けて張り付いた感じで、カチカチ、冷たい感じ、手の密着感が悪いものとなりました。
次にトライしたことは、加茂川石に外割で20%の鉛白を足しての焼きでした。
結果は、1100℃位で綺麗に熔けました。
融点は下がりましたが、まだ出来上がった茶碗の釉薬の手触りは、とても堅く滑りが良く、楽茶碗の趣にはほど遠いいものでした。
なぜ、鉛白を入れたことで、融点が下がったか分かりますか ?
製鉄所で鉄を鉄鉱石から作る原理と全く同じです。
製鉄所は鉄鉱石だけだと熔けにくいので、石灰石を同時に炉に入れて溶かします。石灰石は鉄鉱石を溶けやすくするのです。
なので、鉛白は加茂川石を溶けやすくするのです。でも溶けやすくするだけで、釉調は変わらないのです。
では、余談ですが鉛白だけで釉薬になるか ? 答えはなります。鉛白だけで綺麗に熔けて、一応はガラス状態になります。
でも、スカスカなガラス。比重も全く軽く、まるで透明な紙粘土で茶碗を覆った感じで使い物にはなりません。
そんないろいろな調合で焼きを試してみた結果は、加茂川石の融点を鉛白で下げ、全くの石質を白玉を加えることで黒楽釉薬になるのです。
白玉の割合を多くすれば、釉薬を厚く施釉すれば、黒に見えますが薄い部分は焦げ茶色の発色となります。
この釉薬を使用しているのが、ノンコウと光悦の茶碗の一部。
いろいろ釉薬の配合もおもしろいでしょ ?
焼いてみないと結果が出なくて大変な作業なのですが、面白味はあるんですよ。