楽印物語(フィクション)
むかし、むかし、唐か朝鮮から帰化した瓦職人がいました。
その職人はたいそう腕があり、皆から「朝次郎」と親しまれておりました。
時を同じとして、秀吉の茶頭であった利休が国焼の新しい茶碗を模索しており、素朴でテライがなく、唐物のような固さのない、手で作り込む茶碗が良いのではないか?と思いつき、京の町で腕の立つ瓦職人の朝次郎に相談を持ちかけました。
利休「これ、朝次郎、」
「この様な茶碗は作れんかのぉー、」
朝次郎「作れぇー言われましたら、作れんことはないですがのぉー!」
利休「では、頼む!色は黒にのぉー!」
朝次郎「黒ですか?これまた奇っ怪な色だすなぁー!」「茶碗ですよねー?」
利休「そうじゃ、そうじゃ!頼むぞ朝次郎」
(1ヶ月後)
朝次郎「利休様!出来ました!」
利休「ほー良い出来じゃ!これ、朝次郎!お主、朝次郎の(朝)の字を(長)にせい!今日から長次郎と名乗れ!よいな!」
朝次郎「よう分からんけど、合点承知いたしました。」
(聚楽城西の丸の茶室にて)
二畳台目の茶室にて利休が新作の長次郎の国焼黒茶碗で秀吉に茶を出す。
秀吉「これ利休!この茶碗はなんと申す?」
利休「国焼の黒茶碗でございます。」
秀吉「ほー、黒茶碗よのぉー!何処の作かのぉ!」
利休「長次郎の作でございます。」
秀吉「ほー、ではこの茶碗は聚楽の楽を使わせる、黒楽とせい!長次郎とらやに楽の印をプレゼントじゃ」
そんな経緯があり、楽印は長次郎の元に来ました。
長次郎「秀吉様から印を賜った。これじゃ!でもワシは要らん!職人は印は要らん!」
宗慶「折角拝領したんですから印を使えばいいじゃないですか?」
長次郎「ワシは要らん!お主使え!」
宗慶「いいんすか?使いますよ!バンバンこの印押しちゃいますよ!」
長次郎「好きにせい!」
宗慶「ではでは、お言葉に甘えさせてあただきます。」
そんな経緯が400年前にあり、長次郎の作品には楽印が無いのであった。
(フィクションです。)